【書評】永寿総合病院看護部が書いた新型コロナウイルス感染症アウトブレイクの記録

昨年3月、永寿総合病院で新型コロナウイルスの大規模な感染拡大(アウトブレイク)が大きな話題となりました。

最大クラスター発生の永寿総合病院、看護師手記に「泣きながら防護服着るスタッフも」

 新型コロナウイルスの感染拡大で、国内最大のクラスター(感染集団)が発生した永寿総合病院(東京都台東区)の湯浅祐二院長が1日、東京都内の日本記者クラブで記者会見し、「感染者がいる可能性を常に想定するという認識が十分に浸透していなかった。予防策が不十分だった」と語った。病院側が会見するのは感染判明後初めて。

永寿では入院患者2人の感染が確認された3月23日以降、214人の感染が判明し、入院患者43人が死亡した。厚生労働省クラスター対策班の調査やこれまでの取材で、3月上旬に発症したとみられる入院患者2人の感染に気付くのが遅れた結果、「アウトブレイク(大量感染)」が起きたことが判明している

最大クラスター発生の永寿総合病院、看護師手記に「泣きながら防護服着るスタッフも」 : 社会 : ニュース : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

 昨年、永寿総合病院で起きたアウトブレイク。日々起こる、トラブル、情報の錯綜、迷い、混乱、誹謗中傷。

 この本はこれらに果敢に情熱と知恵で立ち向かっていく看護師さんの姿が看護師さん自身の目線と言葉で赤裸々に語られています。

目次
1. 永寿総合病院看護部が書いた新型コロナウイルス感染症アウトブレイクの記録
2. この本をおすすめの人
3. 本を読んだ感想
4. 参考図書

永寿総合病院看護部(看護師)が書いた新型コロナウイルス感染症アウトブレイクの記録

タイトル永寿総合病院看護部が書いた新型コロナウイルス感染症アウトブレイクの記録
著者高野ひろみ、武田聡子、松尾晴美
出版社医学書院
発行日2021年4月1日
本体価格1,800円

この本をおすすめの人

看護師さんの普段の仕事内容を知りたい

専門用語(SOAP、PPE、インチャージなど)を知りたい

アウトブレイクした病院の過酷さを知りたい

アウトブレイクが、看護師さん、患者さん、ご家族、病院に納品する業者さんなどに与えた大きな影響、トラブル、情報の錯綜、迷い、混乱、誹謗中傷などのリアルを知りたい。

看護師さんが知恵と情熱で立ち向かっていく姿はかっこいい

本を読んだ感想

そして誰もいなくなった

 新型コロナウイルスの患者さんは、一定の退院基準・解除基準があります。つまり、一定の基準を満たせば隔離されるということです。

退院基準・解除基準の改定

有症状者の場合

①発症日から10日間経過し、かつ、症状軽快後72時間経過した場合、退院可能とする。

②症状軽快後24時間経過した後、24時間以上間隔をあけ、2回のPCR検査で陰性を確認できれば、退院可能とする。

★(期間計算入替え)退院基準・宿泊療養解除基準の改定概要 (mhlw.go.jp)

 ということは、アウトブレイクした病院に出向ける方が大きく制限されるということを意味します。

 よく考えれば当たり前のことだけど、この本を読むまで全く想像できませんでした。あぁ、そうか。患者さんの家族が病院にお見舞いにいくことや業者さんが病院にクリーニングや備品を納品することって、アウトブレイクして緊急事態になってしまった病院ではいつものようにいかないんだ・・って。

 看護師さんが代わりにやらなきゃいけない。新型コロナでストレスのかかる中で普段はやらないような仕事まで引き受けて乗り越えなきゃいけない。自分みたいな平凡な会社員からみて想像を絶する過酷さです。この本を読むことで過酷さが身に迫るように感じられます。

いわれのない誹謗中傷

当時はまだ新型コロナがほとんどわかっていなかった状況でした。マスコミはまるで煽るように感染者数や政府の取り組みを報道して、市民はどうしていいか、戦々恐々の時だったと思います。

 2011年東日本大震災の時にもいわゆる風評被害が多かったように記憶しています。

 この本では、永寿総合病院に勤務する看護師さんや看護師さんのご家族までもが、様々な誹謗中傷・風評被害を受けた様子が具体的に書かれています。え~、そんなことを言う人がいるの?って印象だったけど、リスクの全容がほとんどわからない状況下ではリスクを極端に恐れて過剰反応が生まれるということがよくわかります。

 そんな中でも、立ち向かっていく看護師さん。どうしてここまで頑張れるのか、不思議な気持ちにさせられます。でも、頑張っていれば応援してくれる人は出てくるもんです。周りからの温かい応援もこの本で紹介されています。少しホットする一幕です。

業務がきめ細かい

 アウトブレイクした永寿総合病院で必死に働く看護師さん。その工夫や知恵もこの本にはいろいろ書かれてあって、「なるほど~、すごいなぁ」と感心しました。

 日々の具体的な看護師業務もいろいろ紹介されています。看護師さんの仕事を知っているようで詳しくは知らなかったので、勉強になりました。

 工夫や知恵もそうだけど、業務の多さと細かさの方にもびっくりしました。自分みたいながさつな人間はとてもじゃないけど、こんなきめ細かな仕事を正確にこなすなんてできないなぁって感じです。

自己採点(満点:☆☆☆☆☆)
読みやすさ☆☆☆☆☆
分かりやすさ☆☆☆☆
お役立ち度☆☆☆☆
ストーリーの一貫性☆☆☆☆☆
推奨度☆☆☆☆☆

参考図書

 

「がん看護の日常にある倫理―看護師が見逃さなかった13事例 (がん看護実践ガイド) 」一般社団法人日本がん看護学会 (監修), 近藤まゆみ (編集), 梅田 恵 (編集)(医学書院)

「看護師という生き方」近藤仁美(イースト・プレス)

「逃げるな新人外科医 泣くな研修医」中山 祐次郎(幻冬舎)

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