ユナイテッドヘルスは、ニューヨークダウ工業株30種の構成銘柄であり、世界最大の医療保険会社です。この巨大ヘルスケア企業を、ビジネス、2020年本決算&2021年四半期決算の観点から分析します。
(引用:Media Resources – UnitedHealth Group)
ポイント
・ビジネス環境は中立的。追い風も向かい風も両方ある。
・2020年本決算:順調に成長。財務や配当戦略も穏当なもの。
・2021年四半期決算:特別要因が外れて半期利益は前年比やや減少。通期は上方修正。
1. 会社概要 1.1 本社 1.2 CEO 1.3 従業員 |
2. ビジネス環境 2.1 65歳以上の人口増加(追い風) 2.2 高騰する医療費(追い風) 2.3 オバマケア(逆風) 2.4 競合会社(逆風) |
3. ユナイテッドヘルスのビジネス 3.1 医療保険 3.2 医療サービス |
4. 2020年本決算 4.1 売上 4.2 純利益/純損失 4.3 営業キャッシュフロー 4.4 投資キャッシュフロー 4.5 財務キャッシュフロー 4.6 基本EPS 4.7 希薄化EPS 4.8 バランスシート 4.9 配当 |
5. 2021年四半期決算(第2四半期決算) 5.1 売上 5.2 純利益/純損失 5.3 営業キャッシュフロー 5.4 投資キャッシュフロー 5.5 財務キャッシュフロー 5.6 希薄化EPS 5.7 2021年通年見通し |
6. 株式 6.1 上場証券取引所、ティッカー 6.2 株価チャート 6.3 購入可能な証券会社 |
会社概要
本社
米国ミネソタ州、アメリカ合衆国中西部の北、カナダに接する州です。1977年に創業。シンプルなロゴは会社の堅実さを表現しているようです。
CEO
アンドリュー・ウィッティです。年齢は56歳。2008~2017年、世界的な製薬企業であるグラクソ・スミスクライン(GSK)のCEOでした。 その後。ユナイテッドヘルス に加わり、今年2月、 ユナイテッドヘルス ・グループのCEOに就任しました。年齢よりやや貫禄があるのは、長年GSKのCEOを務めていたからかもしれません。
従業員
33万人(2020年12月31日時点)。医療専門家がその中に12万5,000人います。
(出典:Form 10-K (unitedhealthgroup.com))
ビジネス環境
ユナイテッドヘルスにとって現在のビジネス環境は良い面と悪い面が混在しています。多かれ少なかれ、どの時代のどの業種もそうでしょうから、中立的と表現してよさそうです。
65歳以上の人口増加(追い風)
アメリカの65歳以上の人口は、2020年時点で約5,500万人。2050年で約8,400万人に増加見込みです。
65歳以上の医療保険は公的保険のメディケアですが、 メディケアは全医療サービスをカバーしておらず、メディケアの民間保険会社の関与部分(メディケアC、D)において、 アメリカの医療保険会社に対して、65歳以上の人口増加という有利なビジネス環境が存在します。
(引用:An Aging Nation: The Older Population in the United States (census.gov))
アメリカの医療費は世界一です。一人当たりの 医療費も最も高額です。アメリカの総人口は移民政策で徐々に伸びており、アメリカも高齢化が進んでいるので、これからも医療費増加のプレッシャーは相当に強いはず。医療費増加は民間の医療保険の加入にとって追い風です。
高騰する医療費(追い風)
アメリカの 一人当たりの 医療費も最も高額です。 ニューヨーク州の例を挙げてみます。
内容 | 医療費 |
初診料 | 150~300ドル(約 16,500~33,000円) |
初診料(専門医) | 200~500ドル(約 22,000~55,000円) |
急性虫垂炎+手術後腹膜炎で8日入院 | 70,000ドル(約 770万円) |
貧血で2日入院(保存療法施工) | 20,000ドル(約 220万円) |
(出典:ますます巨大化する米国の大手医療保険会社-国民に医療保障を届ける唯一無二の存在へ-オバマケアの帰趨に左右されない強さ (nli-research.co.jp))
これだけ医療費が高騰していると、アメリカ国民は医療保険に加入せざるを得ません。ところが、日本違ってアメリカは国民皆保険制度はないので、アメリカ国民の多くは民間の医療保険に加入します。このような医療保険の事情は ユナイテッドヘルス をはじめとするアメリカの医療保険会社にとって追い風です。
アメリカも部分的に公的保険はあります。先ほどのメディケアとメディケイドです。
メディケア(A,Bプラン) | メディケイド | |
対象者 | 65歳以上の高齢者 65歳未満の身体障害者 65歳未満の末期腎臓疾患患者 | 低所得者 |
運営者 | 連邦政府 | 州政府 |
(出典 :148106s_191127.pdf (mufg.jp))
アメリカの人口は約3億人であり、 公的保険のメディケア(A,Bプラン) や メディケイドに該当しない人、つまり、65歳未満かつ身体障害者や低所得者等でもないアメリカ国民の大半の人は、どうしても 民間医療保険に加入せざるを得ない状況にあります。
さきほど述べたように、65歳以上であっても、 メディケア(A,Bプラン) でカバーされていない医療サービスを保険で受けるためには、 メディケアC,Dについて民間の医療保険に加入することになります。
民間の医療保険のメディケア関与 | 内容 |
メディケア・アドバンテージ(メディケアC) | 眼科、耳鼻科、歯科などの分野の医療サービス |
メディケア・ ドラッグ(メディケアD) | 処方箋薬 |
(出典:Understanding Medicare Advantage Plans.)
オバマケア(逆風)
2010年、通称Affordable Care Act(ACA)が成立し、オバマケアが発足しました。オバマケアは、「増加する無保険者」と「高騰する医療費」に歯止めをかけることを主な目的とする政策です。
65歳未満かつ身体障害者や低所得者等でもないアメリカ国民はどうしても 民間医療保険に加入する必要がありますが、実際、民間の医療保険の保険料が高すぎて加入できなかった国民が多かったです。オバマケアは手頃な価格でこうした国民が医療保険に加入できるように整備しました(エクスチェンジ事業)。その成果もあって、無保険者の国民割合は13.1%(2010年)から9.1%に減少しました(2015年)。
しかし、エクスチェンジ事業はユナイテッドヘルス 等のアメリカの医療保険会社にとってうま味のある制度ではありません。エクスチェンジ事業は安い医療保険料で多くの国民に医療サービスを与える事業だからです。
結果、ユナイテッドヘルス は、他社に先駆けてエクスチェンジ事業からの撤退を表明しました。ユナイテッドヘルス は 34 の州のエクスチェンジで保険を販売していましたが、2017 年には一部の州だけで販売するにとどめました。
高騰する医療費を抑制しつつ、多くの国民に安い医療負担で医療サービスを受けさせようとする事情がアメリカからなくなったわけではないので、そのための政策を強制させられるリスクはこれからもユナイテッドヘルス等のアメリカの医療保険会社に残存すると言ってよいと思います(医療保険会社だけでなく、製薬会社など医療サービスを事業にしている会社・団体に概ね当てはまるリスクと思われます)。
(出典:ますます巨大化する米国の大手医療保険会社-国民に医療保障を届ける唯一無二の存在へ-オバマケアの帰趨に左右されない強さ (nli-research.co.jp))
競合会社(逆風)
ユナイテッドヘルスの競合会社は多く存在します。強い競争は ユナイテッドヘルス の収益を悪化させるかもしれません。この点も見守る必要がありそうです。
会社 | 保険加入者 |
United Healthcare(ユナイテッドヘルスケア、ユナイテッドヘルスG内の保険会社) | 約7,000万人 |
Anthem(アンセム) | 約4,000万人 |
Aetna(エトナ) | 約2,000万人 |
Cigna(シグナ) | 約2,000万人 |
(出典:Largest Health Insurance Companies of 2021 – ValuePenguin)
ユナイテッドヘルスのビジネス
ユナイテッドヘルスのビジネスは大きく2つに分類されます。医療保険と医療サービスです。傘下のユナイテッドヘルスケアが 医療保険事業を、傘下のオプタムが医療サービス事業を進めています。
(引用:Innovation Case Study: UnitedHealth Group Behavioral Innovation™ approach Training (ideastogo.com))
オプタムの医療サービスは、OptumRx、OptumInsight、OptumHealthの3サービスから構成されています。
医療保険
ユナイテッドヘルスケアは様々な医療保険を提供しています。
保険の例
・一般の医療保険
・歯科、眼科、重篤疾患(ガン、心臓疾患など)に関する医療保険
・生命保険
医療サービス
OptumRx
OptumRxは、薬剤給付管理(PBM)というサービスです。医療保険が適用される場合の薬の選択・価格に関する交渉を行います。 OptumRxは 、推奨医薬品リスト(formulary)という保険適用の医薬品リストを作成し、その上で 医薬品会社と価格交渉や契約などを行います。
PBMを図式化すると以下のようになります。
(出典:Reducing Wasteful Spending in Employers’ Pharmacy Benefit Plans | Commonwealth Fund)
図の上から、医薬品会社(Drug Manufacturer)→医薬品卸会社(Whole saler)→病院・薬局(Hospital Retail Pharmacy)→患者(Patient)へと医薬品は流通します。PBMは、 病院・薬局に対して政府や医療保険会社から受け取った保険償還(保険による払い戻し)をします(Reimbursement)。 PBMは、推奨医薬品リスト(formulary)などを材料に(推奨する代わりに価格を下げてという意味) 医薬品会社(Drug Manufacturer) に対して価格交渉したり契約したりするわけです( Rebates )。
OptumInsight
医療保険産業のビジネスモデルは複雑です。過去の医療データを利用した様々なモデル技術を使って医療保険の適用コストを予想します。OptumInsight は、病院、医師、政府、保険会社を顧客として、こういった予想サービスを提供・コンサルティングし、顧客がベストな設計ができるようにサービスします。一種のナレッジサービスといってよいと思います。
(出典:UnitedHealth Group’s OptumInsight – improving medical care (marketrealist.com))
OptumHealth
OptumHealthサービスは、population management practiceと呼ばれています。さきほどのように医療費は増加しています。患者の満足レベルも上がっています。 OptumHealth は、医療費を抑えつつ患者の満足度を上げるためのコンサルティングを行っています。顧客は病院や医師などです。 OptumInsight と比べて OptumHealthは、患者の医療コストパフォーマンスをいかに向上させるかといった”患者目線”の色合いが強いサービスです。
2020年本決算
売上
綺麗な右肩上がりです。
2018年 | 2019年 | 2020年 | |
売上(百万ドル) | 226,247 | 242,155 | 257,141 |
2020年売上げの内訳は以下の通りです。
純利益/純損失
売上同様に利益も順調に拡大しています。
2018年 | 2019年 | 2020年 | |
純利益(百万ドル) | 11,986 | 13,839 | 15,403 |
営業キャッシュフロー
キャッシュフローの最重要である営業キャッシュフローも順調に拡大。事業は良好に推移しています。
2018年 | 2019年 | 2020年 | |
営業キャッシュフロー(百万ドル) | 15,713 | 18,463 | 22,174 |
投資キャッシュフロー
キャッシュをため込むことなく投資を続けているようです。
2018年 | 2019年 | 2020年 | |
投資キャッシュフロー(百万ドル) | -12,385 | -12,699 | -12,532 |
財務キャッシュフロー
営業キャッシュフローが潤沢に出ている状況下、財務キャッシュフローがマイナスということは、ユナイテッドヘルスは、資金の返済や還元などを通して、財務をスリムにしていることがうかがえます。 ユナイテッドヘルスは、 投資の回収局面に到達したと推察されます。
2018年 | 2019年 | 2020年 | |
財務キャッシュフロー(百万ドル) | -4,365 | -5,625 | -3,590 |
基本EPS
純利益をトレースするように1株あたりの利益も拡大しています。株主の多くは満足でしょう。
2018年 | 2019年 | 2020年 | |
基本EPS(ドル) | 12.45 | 14.55 | 16.23 |
希薄化EPS
新株発行など大きな希薄化原因もなく希薄化EPSもほぼ基本EPSと同値です。 ユナイテッドヘルスは、 株主に優しい会社という印象を受けます。
2018年 | 2019年 | 2020年 | |
希薄化EPS(ドル) | 12.19 | 14.33 | 16.03 |
バランスシート
自己資本比率は40%弱程度。高くもなく低くもなくきちんと制御されています。
2019年 | 2020年 | |
総資本(百万ドル) | 173,889 | 197,289 |
負債(百万ドル) | 111,727 | 126,750 |
純資産(百万ドル) | 60,436 | 68,328 |
配当
配当性向は約30%程度。可もなく不可もなくという印象です。ユナイテッドヘルスは大企業でありながら成長企業でもあるので、大きな配当性向は採用していないものと思われます。
2018年 | 2019年 | 2020年 | |
配当(ドル) | 3.45 | 4.14 | 4.83 |
2021年四半期決算(第2四半期)
売上
2021年に入っても、順調に売上は成長しています。
2020年第1,2四半期 | 2021年第1,2四半期 | |
売上(百万ドル) | 126,559 | 141,517 |
純利益/純損失
利益は前年比で若干減少しました。第2四半期ファイナンシャルレポートでは次のように報告されています。
Earnings from operations in the second quarter 2021 were $6.0 billion and adjusted earnings were $4.70 pershare, with the year-over-year comparisons reflecting the broad-based deferral of care during the second quarter 2020 due to the pandemic.
引用;UnitedHealth Group Reports Second Quarter Results
レポートによれば、昨年はCOVID-19の流行で(COVID-19 以外の)医療を受けることが手控えられたことから、保険償還が減少していたとのことです。 レポートは、今年は、米国では、病院で COVID-19が最優先的にならず、他の疾患の医療サービスも元の状態に近づきつつあるということを示していると思われます。
2020年第1,2四半期 | 2021年第1,2四半期 | |
純利益 (百万ドル) | 10,019 | 9,128 |
営業キャッシュフロー
営業キャッシュフロー減少は COVID-19特殊要因の逸脱が主な原因と思われます。
2020年第1,2四半期 | 2021年第1,2四半期 | |
営業キャッシュフロー(百万ドル) | 12,946 | 11,545 |
投資キャッシュフロー
2021年もキャッシュをため込むことなく投資を続けているようです。
2020年第1,2四半期 | 2021年第1,2四半期 | |
投資キャッシュフロー(百万ドル) | -4,485 | -9,209 |
財務キャッシュフロー
2021年に入り、財務キャッシュフローはややプラスに転じたようですが誤差範囲と思われます。
2020年第1,2四半期 | 2021年第1,2四半期 | |
財務キャッシュフロー(百万ドル) | 3,024 | 569 |
希薄化EPS
EPS減少は COVID-19特殊要因の逸脱が主な原因と思われます。
2020年第1,2四半期 | 2021年第1,2四半期 | |
希薄化EPS(ドル) | 10.43 | 9.55 |
2021年通年見通し
ユナイテッドヘルスは2021年第2四半期決算時に2021年通期見通しを上方修正しています。
Based upon first half 2021 performance, the Company increased its full year net earnings outlook to $17.35 to $17.85 per share and adjusted earnings to $18.30 to $18.80 per share
引用;UnitedHealth Group Reports Second Quarter Results
前年通期EPSが16.23ドル。今期通期EPSは17.35~17.85ドルになりそうとのことです。
株式
上場証券取引所、ティッカー
ユナイテッドヘルスは、ニューヨーク証券取引所に、ティッカーUNHで上場しています。上場年は1991年。決算期は12月です。
株価チャート
綺麗な右肩あがり。株価は業績をフォローしているようです。
(出典;UNH 412.22 0.14 0.03% : UnitedHealth Group Incorporated – Yahoo Finance)