【企業決算】ギリアド・サイエンシズ(GILD)ー2020年本決算&2021年四半期決算

 昨年3月から、新型コロナウイルスが世界中を流行しています。ワクチンも開発されましたが、その後、変異株が流行し、まだ完全に制圧したという感じではないかもしれません。

  こういう時代だからこそ、抗ウイルス薬の研究開発を得意とする「ギリアドサイエンシズ」を取り上げてみました。製薬業界に身を置く私の目線も入れて、ビジネスや決算の観点から 、「ギリアドサイエンシズ」という会社を分析してみます。

(引用;Gilead Sciences – Crunchbase Company Profile & Funding

ビジネス分析:ポイント

・今までは、 抗ウイルス薬の研究開発に特化し、成功してきた。

・ごく最近、大型買収を繰り返すことで自社のパイプラインを大幅に充実化させた。

・今では、癌、免疫疾患、ウイルス性疾患の3分野に注力する研究開発方針に切り替わった。

決算分析:ポイント

・ コロナウイルス治療薬として米国で初承認されたレムデシビルの売上が好調。

・主力品である抗HIV治療薬 「Biktarvy」 の売上は未だ増加トレンド。

・コロナ流行の沈静化に伴い レムデシビルの売上増加にブレーキがかかりつつある。

目次

1. 会社概要
1.1 本社
1.2 CEO
1.3 従業員
2. ビジネス
2.1 専門性
2.2 買収の歴史
2.3 パイプライン
2.4 レムデシビル
3. 2020年本決算
3.1 売上
3.2 純利益/純損失
3.3 営業キャッシュフロー
3.4 投資キャッシュフロー
3.5 財務キャッシュフロー
3.6 基本EPS
3.7 希薄化EPS
3.8 バランスシート
3.9 配当
4. 2021年四半期決算
4.1 売上
4.2 純利益/純損失
4.3 営業キャッシュフロー
4.4 投資キャッシュフロー
4.5 財務キャッシュフロー
4.6 基本EPS
4.7 希薄化EPS
4.8 配当
5. 株式
5.1 上場証券取引所、ティッカー
5.2 株価チャート
5.3 購入可能な証券会社

会社概要

 ギリアド・サイエンシズ(Gilead Sciences, Inc; GILD)は、世界的な製薬会社です。売上高では世界14位(2020年)。設立は意外に若くて1987年。創業から30年程度の会社です。

  ギリアド・サイエンシズは抗ウイルス薬の研究開発を得意としています。 同社は「抗ウイルス薬世界NO.1企業」といってよいでしょう。

本社

 本社は米国カリフォルニ州州フォスターシティという計画都市に位置します。サンフランシスコ湾沿いの景観がとてもよい場所です。

CEO

 CEOはダニエルオディ(57歳)。 2019年、ダニエルオディはギリアド・サイエンシズに入社しました。その前は、世界的な製薬会社であるロッシュに30年ほど在籍し重職に就いていました。ダニエルオディは製薬業界を知り尽くしている経営のプロといってよいと思います。写真のようにスラッとしていて聡明な印象を与えます。

(引用&出典;Daniel O’Day | Gilead

従業員

 約11,800名の従業員がいます(2020年1月31日現在)。(出典;SEC Filing | Gilead Sciences

 米国の人事情報サイトによれば、ギリアド・サイエンシズの従業員の平均的な年収は13万ドル(約1,400万円)。日米共に製薬企業の従業員の年収はメーカーの中では比較的高いですが、その水準から見ても少し高めといった印象です。

(出典;Comparably – Transparent Compensation & Culture

ビジネス

専門性

  ギリアド・サイエンシズは、抗ウイルス薬の研究開発に”注力してきた”会社です。

 最近は、抗癌剤、抗精神病薬(統合失調症治療薬など)、神経変性疾患治療薬(アルツハイマー治療薬など)といったアンメットメディカルニーズ(満足いかない医療分野のニーズ)が強くて市場規模の大きい分野で薬の研究開発が行われることが製薬業界の開発トレンドです。

  ギリアド・サイエンシズは、売上高で世界14位規模まで大きくなったにもかかわらず、今までは抗癌剤など他の分野に殆ど進出せずに、抗ウイルス薬の研究開発に特化してきました。

 ただ、最近、 ギリアド・サイエンシズが買収した会社のプロフィールを見ると、 抗ウイルス薬の一本足打法から卒業しようとしていると感じます。まずギリアド・サイエンシズの買収の歴史を振りかえってみます。

買収の歴史

 製薬業界は合従連衡が多い分野です。ギリアド・サイエンシズも多くの会社を買収して大きくなりました。

 代表的な買収事例

・2011年、Pharmassetを11 billionドル(約1兆2,000億円)で買収。

 ーC型肝炎(HCV)治療薬開発を強化。

・2017年、Kite Pharmaを11.9 billionドル(約1兆3,000億円)で買収 。

・2020年、Forty Sevenを4.9 billionドル(約6,000億円)で買収。

 ー抗癌剤開発を強化

・2020年、Immunomedicsを21 billionドル(約2兆2,000億円)で買収。

 ー抗癌剤開発を強化

・2020年、MYR GmbHを1.5 billionドル(約1,600億円)で買収。

 ーD型肝炎(HDV) 治療薬開発を強化。

 ギリアド・サイエンシズは最近になって駆け込むように大型買収を繰り返しています。さらに、 抗ウイルス薬以外の分野(抗癌剤分野)への進出の足掛かりとなる買収も散見されます。

  この一連の買収から、最近のギリアド・サイエンシズのパイプラインが必ずしも十分でないことや抗ウイルス薬よりも魅力的に見える医療分野に進出したいという思惑が透けて見えます

パイプライン

研究開発段階

 買収先の開発分野として抗癌剤分野が目立ちましたが、その結果は、現在のギリアド・サイエンシズのパイプラインにしっかり 反映されています。 抗ウイルス薬の研究開発を得意とする「ギリアドサイエンシズ」 という理解はまだ当たっていると思いますが、 抗ウイルス薬の研究開発を専門とする「ギリアドサイエンシズ」という認識は誤りのように思います。今は、3つの分野に注力 しているようです。ただし、抗癌剤分野の開発は急ピッチに拡大しています。

(引用;Pipeline | Gilead)Last Updated Date: April 29, 2021

 実際、ギリアド・サイエンシズ自身が3分野に注力すると宣言しています。抗ウイルス薬分野での競争性は維持しつつ癌と炎症性疾患を伸ばしていく戦略のようです。その狙いは、「Diverse and Sustainable Portfolio」、多様性を獲得して持続可能性のあるパイプラインを作っていく、というものです。ギリアド・サイエンシズは、抗ウイルス薬の一本足打法から卒業しようとしている、いや強く卒業したがっている、ことは明らかだと思います。

 「Exsisting Antiviral Base」→抗ウイルス薬分野を維持

 「New Therapeutic Areas」→ 抗癌剤と抗炎症性疾患治療薬を伸ばしていく

(引用;PowerPoint Presentation (gilead.com)

販売段階

 現在販売中の主力薬剤

上位5剤は全て抗ウイルス薬

NO.1 抗HIV薬:Biktarvy→売上 7.3ビリオンドル(2020年)

NO.2 抗HIV薬:Genvoya→ 売上 3.3ビリオンドル(2020年)

NO.3 抗COVID-19薬: Veklury( Remdesivir ) →売上 2.8ビリオンドル(2020年)

NO.4 抗HIV薬: Descovy→売上 1.9ビリオンドル(2020年)

NO.5 抗HIV薬:Odefsey →売上 1.7ビリオンドル(2020年)  

レムデシビル

 2020年、抗ウイルス薬「Remdesivir(レムデシビル)」(製品名:Veklury)コロナウイルスのパンデミック。コロナウイルス治療薬として承認されました。

(出典:U.S. Food and Drug Administration Approves Gilead’s Antiviral Veklury® (remdesivir) for Treatment of COVID-19

 2つの剤形が用意されています。写真のように、ready-to-useタイプの青いバイアルのものと、粉状のもので用時溶解して使用するタイプの赤いバイアルのものです。

  Remdesivir(レムデシビル) は販売から1年もたたずに既に数千億円規模の売上にまで急成長しました。ウイルスと人間は長い間共生してきました。今回のようにパンデミックになってしまうこともありました。これからもそうだと思います。そういう時代を人間が生き抜くからこそ、 ギリアド・サイエンシズ が原点である抗ウイルス薬の研究開発では世界をリードしていって欲しいと願うばかりです。

2020年本決算

売上

 順調に増加しています。第4四半期に Remdesivir(レムデシビル)の売上が2811ミリオンドル(約3,000億円)に急増。これが売上の増加に大きく寄与しました。 Remdesivir(レムデシビル) の売上を除くと、特許切れや新型コロナウイルス流行の影響で微減だったようです。

201820192020
売上(百万ドル)22,12722,44924,689

 2020年時点での主力品は抗ウイルス薬(抗HIV薬)です。

純利益/純損失

 昨年度の純利益は大幅減の123ミリオンドル(約130億円)。営業利益(Income from operations)については2019~2020年は大きく変化していないので、営業外での損失が発生したものと思われます。

201820192020
純利益(百万ドル)5,4555,386123

営業キャッシュフロー

 事業から順調にキャッシュが創出されています。

201820192020
営業キャッシュフロー(百万ドル)8,4009,1448,168

投資キャッシュフロー

  2018年を境に投資キャッシュフローがマイナスに転じています。これは、ギリアド・サイエンシズ社が抗ウイルス薬一本足打法から多角化経営へ投資を強めていることを示していると思われます。

201820192020
投資キャッシュフロー(百万ドル)14,355-7,817-14,615

財務キャッシュフロー

201820192020
財務キャッシュフロー(百万ドル)-12,318-7,634770

基本EPS

  純利益の大幅減をそのまま1株あたりに反映させた状態にあります。

201820192020
基本EPS(ドル)4.24.240.1

希薄化EPS

 新株発行などによる1株利益の希薄化は殆どみられません。株主に誠実な印象を受けます。

201820192020
希釈化EPS(ドル)4.174.220.1

バランスシート

 自己資本比率は26.7%。業界の中では財務はあまりよくありません。最近の買収で財務がやや悪化したと思います。2019年の自己資本比率は 36.8%でした。

負債50,186(百万ドル)
純資産18,202(百万ドル)
総資本68,407(百万ドル)

配当

 増配傾向のようです。

201820192020
配当(ドル)2.282.522.72

(出典;0000882095-21-000008 | 10-K | Gilead Sciences

2021年四半期決算(第2四半期)ー2021年7月29日発表

  2020年第2四半期、Remdesivir(レムデシビル)の売上増加は止まりました。2020-2Qの売上は829(百万ドル)。2020-1Q の売上 は1,456( 百万ドル )なので、1Q比43%減。

 ギリアド・サイエンシズは、 次のようにコメントしています。

COVID-19 INSIGHT: Veklury sequential sales decline reflects the positive impact of higher vaccination rates and lower infection and hospitalization rates in many regions

PowerPoint Presentation (gilead.com)

 つまり、「ワクチン接種が進んだこと、感染率が低下したこと、入院が低下したこと」が Remdesivir(レムデシビル)の売上増加を止めたといっています。変異デルタ株の勢いがついてきました(現時点で一日平均10万人感染まで復活)。 Remdesivir(レムデシビル)の売上トレンドに変化があるかどうか見守る必要がありそうです。

 ギリアド・サイエンシズ社の”稼ぎ頭”売上No.1薬剤「Biktarvy」は以前堅調。 2020-2Qの売上は 1,994 (百万ドル) 。 2020-1Q の売上は1,824(百万ドル) 、2019-2Qの売上は1,604 (百万ドル) 。他剤の落ち込みをオフセットしてくれました。

売上

2019-2Q2020-2Q
売上(百万ドル)5,1436,217

純利益/純損失

2019-2Q2020-2Q
純利益 (百万ドル)-3,3461,517

営業キャッシュフロー

 営業活動からしっかり利益が出ています。

2019-1,2Q2020-1,2Q
営業キャッシュフロー (百万ドル)2,5662,316

投資キャッシュフロー

2019-2Q2020-2Q
投資キャッシュフロー (百万ドル)-5,023-577

財務キャッシュフロー

2019-2Q2020-2Q
財務キャッシュフロー (百万ドル)-874-931

基本EPS

2019-2Q2020-2Q
基本EPS (ドル)-2.661.21

希薄化EPS

 新株発行などによる1株利益の希薄化はありません。

2019-2Q2020-2Q
希釈化EPS (ドル)-2.66 1.21

配当

 増配傾向は続いています。

2019-2Q2020-2Q
配当 (ドル)0.680.71

(出典;Second Quarter 2021 Gilead Sciences Earnings Conference Call | Gilead Sciences

株式

上場証券取引所、ティッカー

 NASDAQに上場しています。ティッカーはGILD。1992年上場です。

株価チャート

 2015年頃に、株価はピークアウト。その後、再び騰勢へと変化しているように見えます。3分野への拡張変化の達成度合いを見守る必要がありそうです。

(出典;Gilead Sciences, Inc. (GILD) Stock Price, News, Quote & History – Yahoo Finance

購入可能な証券会社

 マネックス証券SBI証券でギリアド・サイエンシズ株を購入できます。

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