アメリカの不動産価格は長期的に右肩上がりです。不動産取引も活発です。
アメリカは広大な国土の国。現地でお客さんが物件を内見したり、打ち合わせたりすることが難しい場合もあります。そんな中で画期的な不動産テック企業が誕生しました。ジローグループです。高成長を続けています。
オンラインによる不動産取引を加速させたジローグループのビジネスモデル・強み・決算をご紹介します。
(引用;Zillow Group Logos (mediaroom.com))
1. 会社概要 1.1 本社 1.2 CEO 1.3 従業員数 |
2. ビジネスモデル 2.1 住宅売買取引の仲介手数料(Homesセグメント) 2.2 不動産代理店/ブローカー向けの営業支援&広告手数料(IMT) 2.3 不動産買い手向けの住宅ローン金利 |
3. 強み 3.1 競合他社を圧倒する不動産物件の多さ 3.2 不動産取引と金融取引が一体となったワンストップサービス |
4. 2020年本決算 4.1 売上 4.2 純利益/純損失 4.3 基本EPS 4.4 希薄化EPS 4.5 営業キャッシュフロー 4.6 投資キャッシュフロー 4.7 財務キャッシュフロー 4.8 バランスシート 4.9 配当 |
5. 株式 5.1 上場証券取引所、ティッカー 5.2 株価チャート、時価総額 5.3 取扱い証券会社 5.4 クラスaとクラスcの違い |
会社概要
ジローグループは、住宅の販売・購入・賃貸に関するWebサイトやアプリを運営する不動産テック会社です。
(引用;Zillow: Real Estate, Apartments, Mortgages & Home Values)
上のページは ジローグループ Webサイトのトップページです。
ページ上部の「Buy」から、購入用の住宅を検索し、購入できるようになっています。「Rent」からは、賃貸物件を検索・契約できるようになっています。また、「Sell」「Get a cash offer」からは、自宅の不動産を販売できる仕組みが提供されています。さらに、「Home loans」から、購入用の不動産ローンを申し込めるようになっています。
ジローグループは、インターネット上で不動産取引と金融取引が一体となったワンストップサービスを提供し、手数料・広告料・不動産ローンなどで不動産ビジネスを全米展開している会社です。現在、月当たりのアクセスユーザーは約2億人です。全米人口は3.3億人なので、全米の60%の方が ジローグループの Webサイトやアプリを利用しています。
現在、米国の不動産取引において、ジローグループはなくてはならない存在になったと言えそうです。
本社
米国のワシントン州のシアトルに本社があります。
CEO
(引用;Rich Barton – Zillow Group)
ジローグループのCEOはリッチ・バートン(54歳)。 ジローグループの創業者でもあります。
リッチ・バートンは、1994年、マイクロソフト在職中にExpedia(旅行サイト)を起業し、 さらに会社の口コミ会社であるGlassdoorを2007年に起業するなど、インターネットビジネスで数々の成功を収めてきた強者です。同時に、Netflix, Qurate, Artsyなどの取締役も務めてきました。スタンフォード出身です。
知的な中にもエネルギーあふれる風貌をしています。
従業員数
ジローグループの従業員は5,504名(2020年12月時点)。
ジローグループは、従業員の多様性に注力しており、従業員全体のうち、白人が61.7% 、アジア系が20.7% 、ラテン系が7.1%、黒人が5.2%、その他人種が5.3%を占めています。
(出典;0001617640-21-000012 (q4cdn.com))
ビジネスモデル
ジローグループは全米の膨大な住宅情報を自社でデータベース化し、インターネット上で 不動産取引と金融取引が一体となったワンストップサービスを提供しています。それら様々な取引の「手数料・広告料・ローン金利」で利益を上げるビジネスモデルを構築しています。さらに自社で不動産を売買してその差益を得るビジネスも展開しています。
全米の住宅物件は約1億3,000万件。このうち86%の物件が ジローグループのデータベースに収録されています。
(出典;How Does Zillow Make Money? Zillow Business model In A Nutshell – FourWeekMBA)
ジローグループは事業を3つのセグメントに分けています。
3つのセグメント
・Homes:住宅売買仲介、住宅売買
・IMT:広告、マーケティング収入
・住宅ローン
各セグメントの比率(2020年の売上比)は、下の図の通りです。
HomesとIMTがジローグルプの主力セグメントであることが分かります。
各セグメントの具体的なビジネスモデルを説明します。
住宅売買取引の仲介手数料(Homesセグメント)
米国の住宅購入希望者は、 ジローグルプのWebサイトやアプリから様々な住宅条件(地域、価格等)を入力して、 物件情報を探し、購入することができます。下の写真のようにマップに物件が表示されます。
(引用;The Zillow 2.0 Opportunity: Replatforming Real Estate (q4cdn.com))
ジローグループは、住宅購入者と住宅販売者との間の売買取引をジローグループのWebサイトやアプリから簡単に行えるようにする代わりに、売買取引手数料を得ています。
住宅売買取引の仲介手数料
・販売手数料:6%
・エスクロー手数料、タイトル保険料:1~2%
・その他:2.5%
(引用;How Does Zillow Make Money? Zillow Business model In A Nutshell – FourWeekMBA)
エスクローとは、売り手と買い手の間に入る中立な第三者です。エスクローを取引に介在させることで、高額な不動産取引が安全に行われます。エスクロー は 、住宅に問題がないか、住宅ローンはどの程度残存しているのかといった点を調査して買い手に報告します。
タイトル保険も エスクローと同様に不動産取引が安全に行われる仕組みの1つです。
タイトル保険会社が該当 不動産物件の所有権や税金などに関する調査を行い、不動産物件の引き渡し時に物件の買い手に調査レポートを渡してタイトル保険を発行します。調査レポートには所有権があやふやとか税金が滞納されているなどのリスクが記載されています。レポートに不記載の事実が後に判明した際には買い手にその損害が賠償されるという制度です。
不動産代理店/ブローカー向けの営業支援&広告手数料(IMT)
不動産物件の売り手は、不動産代理店/ブローカーを介して、売り出す不動産物件をジローグルプのWebサイトやアプリに掲載しています。そして、不動産物件の売買がスムーズにいくように、ジローグループは、 Webサイトやアプリ上で、 不動産代理店/ブローカーに対して、営業支援サービスや広告媒体の提供を行っています。
この営業支援サービスや広告媒体利用の手数料がIMTセグメントの収入になっています。
営業支援手数料
売り出し物件は、サイトやアプリのマップ上に3D表示させることもできます。
物件を3D表示で見れることで、不動産物件の売買はより活発になります。このような不動産物件の営業支援機能をジローグループのWebサイトやアプリは備えています。
(引用;Selling Solutions for Listing Agents (zillow.com))
不動産代理店/ブローカーは会社です。複数の従業員がチームで各不動産物件の売り出し営業を行っています。ジローグループは、 Webサイトやアプリ上で、各チーム員が担当する不動産物件を割り振る機能を持っています。
(引用;Real Estate Team Solutions | Zillow Premier Agent)
この写真の例では、ワシントン州のシアトルにある90万ドル以物件はチームのメイヤ・ジョーンズさんに割り振られ、物件の申し出は自動的にメイヤ・ジョーンズさんのアカウントに転送される仕組みです。
広告手数料
ジローグループは、 Webサイトやアプリ上の所定の場所に広告枠を設けています。
ジローグループは、物件検索の結果が並ぶ隣に広告枠を設け、不動産代理店/ブローカーが自社宣伝できるようにしています。GoogleやYahooの検索リスティング広告と同様です。下の写真は、広告の例です。アイキャッチ画像、ヘッダー、コンテンツ、WebURL記載箇所、会社ロゴを掲載できるようになっています。
(引用;How To Advertise On Zillow Effectively (shivarweb.com))
その他
ジローグループは、賃貸物件を提供する不動産代理店、大家、不動産修理業者などに対しても、 Webサイトやアプリ上に広告枠を提供し、広告手数料を取る ビジネスを行っています。
不動産買い手向けの住宅ローン金利
ジローグループは、 IT企業であり、不動産企業であり、さらに、金融企業でもあります。
ジローグループは、 不動産買い手向けの住宅ローンを貸し出しています。
ジローグループ上のWebサイトやアプリ上では、他の金融機関と並んで ジローグループの住宅ローンが表示されます(2段目、Zillow Home Loans LLCの行)。
ジローグループが提供する住宅ローン金利は、不動産物件の価格の高さ、物件購入の支払い期間の長さ、頭金の額に応じて、設定されます。下の写真の例では、30万ドルの物件に対して、6万ドルの頭金を支払い、残りの24万ドルを30年かけて分割で支払う方に対してジローグループが提供する住宅ローン固定金利3.250%が設定されています。
(引用;The Zillow Business Model – How Does Zillow Make Money? (productmint.com))
強み
ジローグループの強み
・競合他社を圧倒する不動産物件の多さ
・不動産取引と金融取引が一体となったワンストップサービス
競合他社を圧倒する不動産物件の多さ
全米の住宅物件は約1億3,000万件。このうち86%の物件が ジローグループのデータベースに収録されています。 そして、全米の60%の方が ジローグループの Webサイトやアプリを利用しています。
この圧倒的な情報量の多さがジローグループの強みです。
製品やサービスの価値は利用者数に依存します。 製品やサービスを使っている人が増えれば増えるほど、より価値が高まる現象をネットワーク効果と称されています。
日本において、GoogleやAppleは圧倒的なシェアを占めています。Googleは約70%、Appleのiphoneは約50%程度です。全米において、ジローグループの シェアは圧倒的です。後発の不動産テック企業が登場しても、ジローグループの Webサイトやアプリに集まっている膨大な物件・人・企業の多さを超えることは並大抵ではなく、超えることがなければ、ユーザは乗換える意味をあまり感じません。
ジローグループの最も大きな競合会社は「realtor.com」ですが、ジローグループと realtor.comの差はいっこうに縮まりません。realtor.comが ジローグループ 以上に大きい仮想空間上の不動産マーケットを提供しない限り、ユーザは realtor.comに乗換えようとしないはずです。このネットワーク効果がジローの優位性を確固たるものにしています。
上のグラフを見ると、2015年から realtor.comはジローグループを追いかけようとしていますが、ジローグループのWebサイトやアプリへのアクセス数は realtor.comへのアクセス数と比較して3年間にわたって3倍以上が維持されていることが分かります。
(引用;Why Zillow Has The Advantage Over KW, Rocket Homes And Others – Inman)
不動産取引と金融取引が一体となったワンストップサービス
不動産物件の取引の際、物件の検索、下見、物件の調査、住宅ローンの申し込み、契約など様々な行為が必要となってきますが、 以前は、買い手と売り手はそれらの行為のために様々な企業や人にアクセスする必要がありました。
(引用;Zillow Group, Inc. – Investors – News & Events – Events & Presentations)
米国の場合、不動産売買にかかわる人は大勢います。
売買の代理店(不動産仲介業者)、建物調査をするインスペクター(inspector)、住宅ローンの貸し手(金融機関)、売り手と買い手の間に入る中立な第三者であるエスクロー、不動産瑕疵をカバーする保険業者、転居の引っ越し業者など様々です。中でも ジローグループのWebサイトやアプリでは、 住宅ローン探しと物件探しが一体となったことで、不動産取引はとてもしやすくなったと思われます。
2020年本決算
売上
売上は順調に増加しています。 Homes、IMT、住宅ローンの3セグメントの中で、Homesの成長が売上増加に大きく貢献しています。
2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
売上(百万ドル) | 1,077 | 1,334 | 2,743 | 3,340 |
純利益/純損失
2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
純損失(百万ドル) | -94 | -120 | -305 | -162 |
売上は順調に増加していますが、利益は未だ赤字です。不動産テック市場においては、規模拡大がネットワーク効果を高めて産業障壁になるので、ジローグループは、利益を度外視して規模の拡大を優先しているものと思われます。
ただし、2020年は純損失の拡大に歯止めがかかりました。その大きな原因は IMTと住宅ローンセグメントの売上増加および IMT セグメントの営業費用の低下と説明されています。税引き前利益において、Homesセグメントの損失は-320億円、IMTセグメントの利益は263億円となっています。IMTセグメントは実物不動産取引と区別できるネット上のサービスなので利益率が高く、その規模も大きいので、ジローグループの利益体質はIMTセグメントの売上に大きく依存していると思われます。
Homesセグメント | IMTセグメント | 住宅ローンセグメント | |
売上(百万ドル) | 1,715 | 1,450 | 174 |
税引き前利益/損失(百万ドル) | -320 | 263 | 5 |
基本EPS
2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
基本EPS (ドル) | -0.51 | -0.61 | -1.48 | -0.72 |
基本EPSは純損失を株数で割り算した値なので、未だ赤字状態です。基本EPSの推移も純損失の推移と同様の動きになっています。
希薄化EPS
2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
希薄化EPS(ドル) | -0.51 | -0.61 | -1.48 | -0.72 |
新株発行によるEPSの希釈化などは起きていません。
営業キャッシュフロー
2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
営業キャッシュフロー(百万ドル) | 258 | 4 | -612 | 424 |
営業キャッシュフローは、営業活動の結果、示される手元の資金繰りを示します。
手元資金が大きく変動しており、赤字になった年もあるので、慎重に見ていく必要がありそうです。
投資キャッシュフロー
2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
投資キャッシュフロー(百万ドル) | -247 | -623 | -456 | -1,038 |
投資キャッシュフローは大幅な赤字です。積極的な投資が続いています。
財務キャッシュフロー
2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
財務キャッシュフロー(百万ドル) | 97 | 930 | 1,636 | 1,162 |
財務キャッシュフローは、営業活動および投資活動を維持するためにどの程度の資金が調達され、返済されたかを示しています。ジローグループの 財務キャッシュフローは、 年々増加傾向にあるので、資金調達を積極的に行っていることが分かります。
営業キャッシュフローが順調に増加していれば、財務キャッシュフローの増加は大きな問題はないのですが、営業キャッシュフローがやや不安定なので、今後の 財務キャッシュフローの伸びについては、慎重に見守る必要がありそうです。
バランスシート
2020年 | |
総資産(百万ドル) | 7,487 |
総負債(百万ドル) | 2,745 |
純資産( 百万ドル) | 4,742 |
資産における負債比率が40%弱と小さく、財務は健全であると言えます。
配当
ジローグループは無配方針を維持しています。成長投資を続けるため、この先しばらくも無配にすると公表しています。株主は売上成長をきちんと観察していくことが大切と思われます。
We have never declared or paid a cash dividend on our common or capital stock and we intend to retain all available funds and any future earnings to fund the development and growth of our business. We therefore do not anticipate paying any cash dividends on our common or capital stock in the foreseeable future.
0001617640-21-000012 (q4cdn.com)
(出典;0001617640-20-000015 (q4cdn.com))
(出典;0001617640-21-000012 (q4cdn.com))
株式
上場証券取引所、ティッカー
ジローグループはナスダックに上場しています。ティッカーはZGです。
株価チャート、時価総額
ジローグループは未だ赤字ですが、売上成長に合わせるように株価も上昇しています。
現在(2021/10)、 ジローグループの時価総額は約241億ドル(約2兆6,500億円)です。
(出典;Zillow Group, Inc. (ZG) Stock Price, News, Quote & History – Yahoo Finance)
取り扱い証券会社
マネックス証券やSBI証券でジローグループの株を売買できます。
クラスaとクラスcの違い
ジローグループの株式には「クラスa」「クラスc」の2種類が存在します。
クラスa | クラスc | |
ティッカー | ZG | Z |
議決権 | あり | なし |
新旧 | 旧 | 新 |
2015年、ジローグループは株式を分割し、新しいクラスのクラスcの株を作りました。クラスcの株によって、ジローグループが他社を買収したり、経営陣に対して補償することができるようになります。類似の例として、グーグルは、2014年、2種類のクラスの株に分割しました(ティッカー :GOOG and GOOGL)。
なお、クラスcの株主には議決権はありません。