【企業分析】京東商城（ジンドン、JD.com）とはどんな会社？

　京東商城（ジンドン、JD.com）は、アリババと並ぶ中国最大のEC企業です。

　最近、日本のニュースでも「京東商城（ジンドン、JD.com）」の名前を聞くようになりました。「京東商城（ジンドン、JD.com）」って、どんな会社なんでしょうか？

　当ブログでは、書評スピンアウトとして、興味深い会社を順次紹介していきたいと思います。前回の企業紹介は、「美団（メイトゥアン）」。今回も中国IT企業である京東商城（ジンドン、JD.com）にスポットライトを当てます。

会社概要

引用：JD.com, Inc.

　京東商城（ジンドン、JD.com）は、日本で言えば、楽天やアマゾンのような一般消費者向けの大手オンラインショッピング会社です。京東商城（ジンドン、JD.com）は、中国最大のEC企業であり、中国最大の小売り企業であり、さらに、中国最大のIT企業でもあります。

　京東商城（ジンドン、JD.com）企業キャラクターは白いワンちゃんのようですが、会社ホームページにはこのログの横にこう書かれています。「Authentic Product, Delivered Today （本物を今日届けます）」。この一言が京東商城（ジンドン、JD.com）の経営方針といってよさそうです。

京東商城（ジンドン、JD.com）の売上規模

京東商城（ジンドン、JD.com）の品質方針

　京東商城（ジンドン、JD.com）は偽ブランド品を許さないという厳しい基準を設けています。中国の悪いイメージを払拭して、消費者を保護しようとする、京東商城（ジンドン、JD.com）の決意が表れていてとても印象的です。その決意によって、消費者から強い信頼が寄せられ、京東商城は大きく成長していることが推察されます。

JD.com’s Commitment to Quality and Authenticity（品質と真正に対する京東商城の決意）

JD.com has always had a strict “zero-tolerance” policy regarding counterfeit products. Customers trust JD.com because they know the brand is a guarantee of authenticity.（京東商城は、偽ブランド品に対して絶対に許容しない。ブランドは真正の保証であることを消費者が知っているから、消費者は京東商城を信頼するのである）

引用：JD.com, Inc.（訳文は当ブログ著者が作成）

本社、CEO

　本社は北京にあります。CEOは、劉強東 (りゅう きょうとう、Liu Qiangdong)です。

　写真のように若いCEO。現在、48歳。CEOであり創業者でもあります。

　劉強東 (りゅう きょうとう、Liu Qiangdong)は、2004年に京東商城（ジンドン、JD.com）の前身の会社を北京と上海に開業。その後、2006年、Star Wave Investments Holdings Limitedと合併し、会社名を360buyとした。さらに、2014年、360buyが現在の京東商城（ジンドン、JD.com）へと社名を変更しています。

（出典：京東商城（ジンドン、JD.com）2019年アニュアルレポート）

従業員

　2020年時点で約31万5000人の従業員が働いています。トヨタ自動車の従業員数が約36万人なので、従業員規模で、京東商城（ジンドン、JD.com）はトヨタ自動車と肩を並べています。

　中国のITプラットフォーマーでの従業員構造は、「一部のホワイトカラー」と「大多数のブルーカラー」となっているようです。京東商城（ジンドン、JD.com）においても、従業員の約10％が「いわゆるホワイトカラー職」に相当し、残り90％は日々の倉庫作業・商品調達・商品配達などブルーカラー業務に従事しています。

（出典：京東商城（ジンドン、JD.com）2020年アニュアルレポート）

製品、サービス

引用：Home – JD Corporate Blog

　京東商城（ジンドン、JD.com）サービスは、「小売り」「物流」「その他」に分類されます。

小売り：中心はヘルスケアサービスへ

　京東商城（ジンドン、JD.com）サービスの中心は「小売り」です。「小売り」では、一般消費者向けに、家電・アパレル・家具・日曜消費材・生鮮食品などをオンライン上で販売しています。写真のように、消費者は、スマートフォンにアプリを入れてオンラインショッピングを楽しめます。

　現在、小売りの主要サービスは、「ヘルスケアサービス」です。

　ヘルスケアサービスは、京東健康（JD Health)という京東商城（ジンドン、JD.com）傘下の企業によって運営されています。以下のようにロゴは赤色で親会社のJD.COMと統一されています。京東商城（ジンドン、JD.com）のコーポレートカラーは赤色のようです。

　これは、2021年第一四半期の決算資料の抜粋です。京東健康（JD Health)の売上はJD.COMの売上の半分に相当し、利益は過半となっています。JD Healthが京東商城（ジンドン、JD.com）傘下の事業の中で「稼ぎ頭」であることが一目で分かります。

（引用：京東商城（ジンドン、JD.com）2021年第一四半期 Financial and Operational Highlights）

「ヘルスケアサービス」は以下のように分類されます。

（出典：京東健康（JD Health)　2020年アニュアルレポート）

　中国の高齢化は急速に進んでいます。これから中国はますますヘルスケアが重要な産業分野に位置づけられていくでしょう。京東健康（JD Health)が、家電・アパレル・家具・日曜消費材・生鮮食品など生活必需品からヘルスケアに軸足をシフトしていることは中国の高齢化社会の加速を見据えているからだと思います。

　このようなオンラインでのワンストップ型ヘルスケアプラットフォームは、患者さんや消費者にとってとても便利です。この点は日本よりも中国の方が先行しているように思います。

　日本でもオンライン診療が始まりましたが、「オンライン診療の場合は、医療機関によって予約方法は異なります。詳しくは各医療機関のホームページをご覧ください。」「薬が処方され、薬の配送を希望する場合は、薬を出してもらう最寄りの薬局を医療機関に伝えたうえで、診察後、薬局に連絡してください。電話やオンラインによる服薬指導を受けられ、その後、薬が配送されます」（引用：厚生労働省「オンライン診療に関するホームページ」）と、オンライン治療を受けるために、病院や薬局に電話連絡したり、各医療機関のホームページを見に行く必要があったりと、不便です。一日も早くワンストップ型ヘルスケアプラットフォームが日本にも出来て欲しいと思います。

物流：高度化を続ける商品配送

　京東健康（JD Health)にとって、物流施設や装置の高度化は、アリババとの競争を勝ち抜くためにも、そして、中消費者の高まる時間ニーズに応えるためにも、必須と言えます。

　京東健康（JD Health)は、32の高度な物流施設を有し、1000を超える倉庫を持っています。倉庫の大きさは2,100万平方メートル、東京ドームの大きさの約400倍にも相当します（出典：JD.com, Inc.）。そして、その物流の技術はますます高まっており、郊外への配達を「ドローン」で行うプログラムもスタートしました。下の写真のように、3方向にプラペラを有するドローンが商品の入った段ボール箱を下部に携えて、プロペラ音を響かせながら空を飛んで配送します。

（引用、出典：JD.com, Inc.）

　現在、京東健康（JD Health)は、注文された商品の80％を、注文当日または翌日までに配送します。今後、交通アクセスが悪く消費の選択肢が乏しかった郊外の消費者に対して、「ドローン」が同じような時間で配達するようになれば消費はますます高まっていくでしょう。

アリババとのビジネスモデルの違いは京東商城に有利か？

　京東商城（ジンドン、JD.com）とアリババは中国の2大オンラインEC企業です。京東商城（ジンドン、JD.com）とアリババは中国国内で激しい競争をしています。

　京東商城（ジンドン、JD.com）は、自前で物流施設を有し、商品の在庫を抱えています。京東商城（ジンドン、JD.com）は、お客様の注文を引き受けます。その注文に従って、在庫の商品をお客様に自前の物流に乗せて届けるビジネスモデルを採用しています。京東商城（ジンドン、JD.com）のオンラインECモデルは、Amazonのビジネスモデルと近いです。

　アリババは、BtoCのTmall（天猫）では、商品の在庫を抱えず、アリババ自身がお客様の注文を引き受けません。アリババはあくまでオンラインECマーケットの場を企業と消費者に提供しているだけです。

（出典：Better Buy: Alibaba vs. JD.com）

　中国の消費者の目線は益々厳しくなると思います。京東商城（ジンドン、JD.com）は、自前で物流施設を有し、商品の在庫を抱え、その商品に対して厳しい品質方針を課しています。そして、京東商城（ジンドン、JD.com）は、物流を高度化することで中国の消費者の高まる要求に応えていこうとしています。このような取り組みは地味に見えますが、これからの中国消費の品質要求を引き受けることができるビジネスモデルを有していることは京東商城（ジンドン、JD.com）の強みと言えそうです。

財務（決算情報）

売上、利益

（引用：京東商城（ジンドン、JD.com）2021年第一四半期 Financial and Operational Highlights）

　京東商城（ジンドン、JD.com）の売上高は綺麗な右肩上がりです。2015年頃は年率40％という高い成長率でしたが、最近は年率30％程度の成長率となっています。京東商城（ジンドン、JD.com）は売上が10兆円を超えてなお年率30％程度の成長率を維持できるというのは驚異的です。

（出典：京東商城（ジンドン、JD.com）2019年アニュアルレポート）

　ITプラットフォーマーは、創業早期は利益度外視、規模拡大によってマネタイズが進み、黒字化していく傾向が見えますが、京東商城（ジンドン、JD.com）も同じ戦略のようです。京東商城（ジンドン、JD.com）は、巨人アリババと熾烈な競争をしているので、取引の囲い込みが利益よりも優先されるということと思います。

資産

（出典：京東商城（ジンドン、JD.com）2019年アニュアルレポート）

　総資本も売上の増加と共に順調に伸びています。自己資本比率は概ね同程度に保たれていることから、京東商城（ジンドン、JD.com）は負債の管理をしっかり行っていることが推察されます。

社史

• 2004年、劉強東 (Liu Qiangdong)が、オンラインECサイトを開設し、上海と北京に2つの会社を設立。
• 2007年、北京京東世紀貿易有限公司（Beijing Jingdong Century Trade Co., Ltd）が2つの会社を吸収する形で設立。
• 2006年、同社のオフショア持株会社としてStar Wave Investments Holdings Limitedを設立。その後、同社の社名を360 buyに変更。
• 2014年、360 buyの社名をJD.comに変更。

（出典：京東健康（JD Health)　2020年アニュアルレポート）

世界からみた京東商城、日本から見た京東商城

アリババ VS 京東商城 ー二股は許されない

　今、世界は米中の2大大国の競争が熾烈を極めています。小国は自国の安全保障や経済運営の安定を求め、いずれの軍団に下るのかを決めなければいけません。大きな勢力2つがしのぎを削っているとき、2大勢力を足かけて都合よく利用する風見鶏になることは許されません。

　中国のEC市場は、アリババ商圏と京東商城商圏に二分されています。中国の消費市場はますます大きくなっていきますから、他国の企業は中国のEC市場を無視できなくなってきています。

　アリババが提供するオンラインンラインショッピングモールは「Tmall（天猫）」と呼ばれています。アリババは、Tmall（天猫）に商品を出店する会社に対しては「独占契約」を結ぶことを許容していました。2018年、「独占契約」の締結を嫌がった米国のアパレル会社がライバルである京東商城のオンラインンラインショッピングモールに出店したところ、アリババはTmall（天猫）からその米国アパレルを閉め出したと報じるニュースが話題となりました。

（出展：Brands say Alibaba punished them for refusing exclusivity (bangkokpost.com)）

その後、中国政府は、中国の独占禁止法を整備し、今年4月、初めて中国ITプラットフォーマーに対して独占禁止法の違反を適用し、およそ3,000億円の罰金を科しました。おそらく、中国政府が他国や消費者からの圧力を受け、公平な競争を阻害するような独占企業を厳しく取り締まる方針に転換したと思われます。特に、2社から1社を選べ、つまり、アリババ商圏と京東商城商圏の排他選択を迫るような行為はこれから取り締まり強化されていきます。

（出典：Alibaba Hit with Record $2.8 Billion Fine for Antitrust Violations in China | Dentons – JDSupra）

ただ、法律には必ず限界があります。両社が中国のEC市場でますます成長する限り、こういった問題はこれからも度々話題となりそうです。

物流こそが京東商城の生命線

　最先端の物流こそが京東商城（ジンドン、JD.com）の生命線です。アリババと違って、自前の高度な物流施設を有し、在庫を確保し、いわば「logistics-based」なITプラットフォーマーだからこそ、これから益々高まる中国消費者の品質への厳しい要求に応えられる基盤をつくることができています。

　京東商城（ジンドン、JD.com）傘下の物流会社「JD logistics」が先月末に香港証券取引所に上場しました。この上場によってJD.comグルーの国内外物流展開をさらに進めていくものと思います。

引用：Robotic Arm Sounds JDL’s HKEX Listing Gong – JD Corporate Blog

　これはJDの倉庫の様子です。AGVという自動装置が倉庫の床をオートメーションで動き回り、工場内の荷物梱包の担当者へ荷物を自動で届けてくれるそうです。このAGVのおかげで、なんと、1人の担当者が1時間あたり250個の商品をピックアップ出来るそうです。15秒に1個の商品をピックアップできるとかすごいですね。

株式

JD.com

　JD.comは、アメリカのNASDAQと香港証券取引所にダブル上場しています。

　NASDAQのティカーシンボルはJDです。香港証券取引所の番号は9618です。

JD Health

　JD Healthは、香港証券取引所に上場しており、番号は6618です。

JD logistics

　JD logisticsは、香港証券取引所に上場しており、番号は2618です。

出典：京東商城（ジンドン、JD.com）ウエッブサイト

出典：京東商城（ジンドン、JD.com）企業ブログ

出典：京東商城（ジンドン、JD.com）2019年アニュアルレポート

出典：京東商城（ジンドン、JD.com）2020年アニュアルレポート

出典：京東商城（ジンドン、JD.com）2021年第一四半期 Financial and Operational Highlights

出典：京東健康（JD Health)　2020年アニュアルレポート

出典：NASDAQ　Better Buy: Alibaba vs. JD.com

出典：Alibaba Hit with Record $2.8 Billion Fine for Antitrust Violations in China | Dentons – JDSupra

出展：Brands say Alibaba punished them for refusing exclusivity (bangkokpost.com)