米国は、製造業から、IT、金融、ヘルスケアといった知的集約サービス産業へシフトし、素晴らしい革新を世界にもたらしています。今回は、睡眠と呼吸のプロフェッショナルである、レスメド(Resmed Inc、RMD)をご紹介します。
1. 会社概要 |
2. 本社、従業員、CEO 2.1 本社 2.2 従業員 2.3 CEO |
3. ビジネス・製品・サービス 3.1 ビジネス地域 3.2 3種類の製品・サービス 3.3 2種類の医療分野 3.4 マスク 3.5 医療機器 3.6 競合 3.7 資本戦略 3.8 ビジネス戦略 |
4. 決算 4.1 売上 4.2 利益 4.3 バランスシート |
5. 株式 5.1 株価チャート 5.2 取扱い証券会社 |
会社概要
(引用:Buy CPAP supplies online – ResMed)
レスメドは、睡眠時無呼吸症候群や慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器に関する疾患を診断・治療・管理するための医療機器を製造・販売する米国企業です。クラウドコネクトのネットワーク型の医療機器も含まれます。創業は1989年、上場は1995年と、ヘルスケア分野では新興企業といってよいと思います。写真はレスメドのロゴ。睡眠~活動の人間のサイクルを模したような優しいデザインです。
本社、従業員、CEO
本社
本社はカリフォルニアのサンディエゴにあります。
従業員
2020年1月30日時点で、従業員数は7,770名。それぞれの部門にバランスよく配置されています。
部門 | 従業員数 |
製造、その他営業コスト関連業務 | 3,490名 |
研究・開発 | 1,280名 |
営業、マーケティング、管理 | 3,000名 |
合計 | 7,770名 |
レスメドは140ヶ国でビジネスを展開しているグローバル企業です。従業員も各地で働いています。
地域 | 従業員数 |
米国、カナダ、ラテンアメリカ | 3,030名 |
オーストラリア | 1,560名 |
欧州 | 1,260名 |
アジア | 1,920名 |
合計 | 7,770名 |
CEO
(引用:ResMed Executive Team Bios – ResMed)
CEOはマイケルファレル。2000年にレスメドに入社。その前はSanofi Genzymeなどで働いていました。現在、 レスメドのCEOの傍ら、Zimmer Biomet (NYSE: ZBH)の取締役も勤めています。年齢は48歳ですが、写真のように貫禄ある社長さんです。
ビジネス・製品(マスク・医療機器)・サービス
ビジネス地域
レスメドは米国欧州アジアなどグローバルに事業展開しています。米国・カナダ地域を中心に、欧州やアジアでも レスメドの製品・サービスは患者に利用されています。
(出典:ResMed Foundational Branded PowerPoint (q4cdn.com))
3種類の製品・サービス
レスメドは、呼吸器疾患治療に関するマスクや医療機器を製造販売しています。さらに、院外でのSaas医療ITネットワークサービス事業にも進出しています。 医療機器とマスクが主力です。
(出典:ResMed Foundational Branded PowerPoint (q4cdn.com))
2種類の医療分野
主力の医療分野は 睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome) と慢性閉塞性肺疾患(COPD: Chronic Obstructive Pulmonary Disease)です。レスメドは睡眠・呼吸にほぼ特化した会社した会社と言ってよさそうです。
(出典:ResMed Foundational Branded PowerPoint (q4cdn.com))
マスク
代表的な製品は睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome)治療用のマスクです。様々なタイプのマスクが販売されています。例えば、「AirFit™ F10 full face」は、写真のようなマスクです。
(引用:AirFit™ F10 and AirFit F10 for Her full face masks – ResMed Healthcare Professional)
閉塞性睡眠時無呼吸タイプに有効な治療方法として、CPAP(Continuous Positive Airway Pressure;持続陽圧換気療法)が知られています。 「AirFit™ F10 full face」 は、 CPAP 用のマスクとして販売されています。下の写真のように、患者は就寝時に頭にマスクを固定して、口鼻部分にこのマスクをはめます。睡眠中、CPAP装置からエアチューブを伝い、空気が送り込まれます。
(引用:AirFit F10 full face CPAP mask – ResMed)
医療機器
レスメドの代表的な医療機器は人工呼吸器です。
睡眠時無呼吸症候群(睡眠関連呼吸障害(sleep related disorder breathing;SRDB)と称されることもある)への治療として、CPAP(Continuous Positive Airway Pressure;持続陽圧換気療法)がよく知られてい ますが、CPAPの他、APAP、BPAP、ASVも知られています。
(出典:成人OSAにおいてCPAPは本当に第一選択なのか?:Pros. CPAPは成人睡眠関連呼吸障害治療の第一選択である (jst.go.jp))
また、2相性陽圧 (Bi level) の呼吸器も知られています(出典:インスピレーション No.7 (me-times.co.jp))。
レスメドは、このような様々なタイプの人工呼吸器を製造販売しています。
(引用:airsense10_aircurve10_product_and_therapies_matrix_amer_eng.pdf (resmed.com))
競合
レスメドの代表的な競合企業は以下の通りです。
競合会社 | 本社所在地 | 分野/製品 |
フィッシャー・アンド・パイケル・ヘルスケア | ニュージーランド | 呼吸・救急医療分野。CPAP製品の販売など。 |
フィリップス | オランダ | AED、X線装置、人工呼吸器など。 |
メドトロニック | アイルランド | 心臓ペースメーカー、人工呼吸器など。 |
GEヘルスケア | 米国 | CT、MRI、バイタルサインモニタなど。 |
資本戦略
各会社が資本をどのように活用するかは会社の資本戦略に依存します。成長著しい新興企業は、配当・自社株買いといった株主還元よりも自社製品・サービスの開発に資本をより多く投下する傾向があります。 新興企業は、 資本の有効活用の観点から、株主にそれぞれの決算時点での現金を還元するよりも将来の投資に向けたほうが長い目でみて株主に報いることができると考える傾向があると言い換えることもできます。
レスメドの資本戦略の優先順位は次の通りです。
レスメドの資本戦略
・優先順位1 レスメド新製品・サービス開発への投資(再投資戦略)
・優先順位2 M&A(買収戦略)
・優先順位3 配当還元
・優先準備4 自社株買い
(出典:ResMed Foundational Branded PowerPoint (q4cdn.com))
レスメドの売上は3,000億円程度です。140ヶ国で事業を行っています。しかし、 レスメドの創業は1989年、上場は1995年と、ヘルスケア分野では新興企業といってよいと思います。レスメドの資本戦略は、自社製品・サービスの研究・開発にこそが資本効率の最大化につながるとレスメドは信じていることを示していると言えそうです。
レスメドの2015年以降の主なM&Aを振り返ってみます。
NO. | 年 | 買収企業 | 製品・サービス分野 |
1 | 2015 | Curative medical | CPAP用製品 |
2 | 2015 | Jaysec | ヘルスケアIT |
3 | 2015 | Care Touch | ヘルスケアIT |
4 | 2016 | Brightree | ヘルスケアIT |
5 | 2017 | Conduit Technology | ー |
6 | 2017 | AllCall Connect | ヘルスケアIT |
7 | 2018 | MatrixCare | ヘルスケアIT |
8 | 2018 | HEALTHCAREfirst | ヘルスケアIT |
9 | 2018 | Apacheta | ヘルスケアIT |
10 | 2020 | SNAP Worx | ヘルスケアIT |
11 | 2021 | CITUS | ヘルスケアIT |
(出典:ResMed PowerPoint (q4cdn.com))2020/8/5
レスメドはこれまでマスクや医療機器の会社を多く買収してきたのではなく、在宅療法や高度なヘルスケアITに関係する技術を多数のM&Aにより取り込み自社製品・サービスの高度化を図ってきたいと言えそうです。むしろそうすることで、自社研究・開発を中心とする資本戦略を明確に打ち出せるようになったと理解されます。
ビジネス戦略
レスメドのビジネス戦略は以下の7つの戦略です。特に①~④は現在のビジネスに直結する戦略なのでとりわけ重要だと思われます。
呼吸器・睡眠障害に関する医療分野に特化し、自社の研究・開発をベースにヘルスケアIT技術を取り入れて製品・サービスを高度化/拡張することで優れた医療製品・サービスをグローバルに展開するという戦略です。
例えば、他の診断機器・医療機器などの分野に進出するとか、製薬事業も兼ねるとか、そういう総花的な戦略は採用しておらず、今までのビジネスを高度化し、拡張していくという戦略なので、レスメドは自分のビジネスに自信をもっていることがうかがえます。
レスメドは、 フィッシャー・アンド・パイケル・ヘルスケア を相手取って、特許侵害訴訟を提訴し、勝訴しています。レスメドのマスク特許を フィッシャー・アンド・パイケル・ヘルスケア が侵害したとの主張が認められたことになります。レスメドが自社の知的財産を違法に侵害する会社は許さないという態度は、レスメドの研究開発が優れているという自信の表れとも解釈できます。
(出典:レスメド、フィッシャー&パイケルに対するドイツの特許侵害訴訟で勝訴 | Business Wire)
①睡眠時無呼吸症候群治療分野における研究・開発を継続
多様な製品ラインナップ(マスク:AirTouch and AirFitなど)。マスクセレクターなどのコンビネーション製品によるサービスの高度化
② COPDや神経筋疾患など呼吸器分野における製品ポートフォリオの拡大
マスク、人工呼吸器の他、酸素濃縮器など製品ポートフォリオの拡大
③在宅治療におけるソフトウェアサービス(SaaS)を強化
Brightree、MatrixCare、HEALTHCAREを買収。院外のヘルスケアを SaaSで高度化
④世界でのプレゼンスを向上
現在、140ヶ国でビジネスを展開。2016年、 Curative Medical を買収することで中国市場へ進出。2019年、 HB Healthcare買収により、韓国市場へ。
⑤公衆への啓蒙活動
睡眠障害やCOPD治療に関するプロモーション活動
⑥満たされていない治療ニーズへの新しい適用
研究によって、OSA(閉塞性睡眠時無呼吸)と脳卒中・うっ血性心不全との関連性や睡眠時無呼吸症候群が高血圧の原因となっていることなどを明らかにしてきた。
⑦マネージメントの活用
睡眠障害、呼吸器、ヘルスケアIT等の分野で得たマネージメントチームの経験を生かす
(出典:ResMed-Form-10-K-June-30,-2020-(as-filed-on-12-August-2020).pdf (q4cdn.com))
決算
売上
売上げは綺麗な右肩上がりです。
利益
ITの新興企業等と違って利益も出しつつそれを高めていくことができる会社です。利益創出力は高いと思います。純利益売上高比率は約20%です。日本の医療機器メーカーであるテルモとシスメックスの 純利益売上高比率はいずれも10%強なので (2020年度) 、レスメドの利益率は脅威的な数字です。
バランスシート
自己資本比率は50%を超えており、財務体質も強いです。
(出典:ResMed-Form-10-K-June-30,-2020-(as-filed-on-12-August-2020).pdf (q4cdn.com))
株式
株価チャート
レスメドはニューヨーク証券取引所に上場しています。ティッカーはRMD。上場以来、 レスメドの株価は大きく上昇しています。
(出典:RMD 259.83 2.24 0.87% : ResMed Inc. – Yahoo Finance)
取扱い証券会社
日本に居ながらレスメドに投資することが出来ます。例えば、マネックス証券やSBI証券でレスメド株(RMD)を購入できます。